CEO Edition
沢村 真琴氏のポートレート
CEO Edition 20222022 Grand Focus

Makoto Sawamura

沢村 真琴

Founder / CEO / アグリノマ

畑の判断を、次の季節へ残す。栽培記録と作業予定をつなぎ、地域の生産現場に静かな継続性を生む沢村真琴の農業支援。

Grand Focusは、各年のグランプリを受賞された人物を通常プロフィールより深堀りする特集枠です。本ページでは、事業の背景、組織づくり、意思決定の過程まで踏み込んで紹介します。

Year
2022
Role
Founder / CEO
Industry
農業記録・作業計画支援
Tags
農業記録・作業計画支援事業設計組織づくり

Profile Summary

Profile

沢村真琴氏が率いるアグリノマは、栽培記録と作業予定を共有する農業支援ノートを展開している。天候、土の状態、作業の遅れ、病害への警戒、家族や支援者との分担。農業の現場には、数字だけでは表せない判断が多い。

沢村氏が見つめているのは、その判断が季節をまたいで残りにくいという課題である。去年の同じ時期に何を迷ったのか。なぜその日に作業したのか。誰が何を見て判断したのか。記録が残らなければ、次の季節はまた経験と記憶に頼ることになる。

沢村氏の記録観には、祖母の手帳の記憶がある。大きな農家ではなかったが、身近な畑には季節ごとの言葉があった。雨が軽い、風が変わった、芽が遅い。短いメモでも翌年の判断を助けることがある。その経験から、沢村氏は農業記録を管理のための表ではなく、未来の自分や次の担い手と話すための手がかりとして捉えている。

穏やかな語り口とは裏腹に、沢村氏の判断は慎重で粘り強い。農業支援を名乗る以上、現場を急がせすぎてはいけない。作物は事業計画に合わせて育つわけではなく、地域には地域の関係がある。アグリノマは、畑の仕事を外から急に変えるのではなく、作業後に残る一言、写真一枚、家族との確認を少しずつ次の季節へ渡していく。

2022 Grand Focusでは、農業記録を単なる日誌にしないための設計、地域の生産者グループとの距離感、そして記録を未来の判断に変える沢村氏の考えを深く聞いた。

Company Focus

アグリノマは、小規模農家、地域の生産者グループ、支援担当者に向けて、畑ごとの記録と作業予定を扱う仕組みを提供する。目的は、農業を画一的に管理することではない。生産者が日々見ている変化を、次の判断に使える形で残すことである。

畑ごとの状態、作業の理由、天候による予定変更、収穫前後の気づき。そうした情報は、忙しい時期ほど流れてしまう。アグリノマは、記録を負担にしないことと、後から読み返せることの両立を目指している。

Business Focus

事業の中心にあるのは、季節をまたいで使える農業の判断記録である。単に作業日を残すだけでは、翌年の助けにはなりにくい。必要なのは、なぜその作業をしたのか、何を見て迷ったのか、次に同じ状況が来たとき何を確認すべきかという文脈である。

沢村氏は、記録の形式を細かく作り込みすぎない。農家ごとに言葉も作業の流れも違うからだ。一方で、何も決めなければ読み返せない。自由さと見返しやすさのあいだで、農業の現場に合う記録の形を探っている。

Leadership Note

沢村氏のリーダーシップは、急がせないことに表れている。農業には季節のリズムがあり、机上の予定どおりには進まない。予定がずれることを失敗と見なすのではなく、なぜずれたのかを次に活かす。

社内でも、利用者の声をすぐ機能名に変えるのではなく、どの季節のどの場面で出た言葉なのかを確認する。地域の知恵を尊重しながら、次の世代へ渡せる形にすることが、沢村氏の組織づくりの軸になっている。

Interview

Q&A

Question 01

農業記録の事業を始めたきっかけを教えてください。

インタビュアー

農業記録の事業を始めたきっかけを教えてください。

沢村

畑で起きた判断が、次の季節に残りにくいことが気になっていました。作業した日付は残っていても、なぜその日にしたのか、何を見て迷ったのかまでは残らないことが多いんです。

インタビュアー

記録はあるけれど、判断の理由が抜けている。

沢村

そうです。農業は毎年同じようで、毎年違います。だからこそ、理由が残っているかどうかで翌年の見え方が変わります。

Question 02

沢村さんご自身は、農業とどのように出会ってきたのでしょうか。

インタビュアー

沢村さんご自身は、農業とどのように出会ってきたのでしょうか?

沢村

実家が大きな農家だったわけではありません。ただ、祖母が小さな畑をしていて、子どもの頃はよく手伝っていました。手伝いと言っても、ほとんどは邪魔をしていたのだと思います(笑)。

インタビュアー

それでも記憶に残っているのですね。

沢村

残っています。祖母は天気のことをよく話していました。今日は風が変わったとか、昨日の雨は軽かったとか、同じ雨でも全然違う言い方をするんです。子どもの頃は不思議でした。

インタビュアー

天気を細かく見ていた。

沢村

はい。あと、古い手帳に短いメモを残していました。何月何日、少し寒い、芽が遅い、というような本当に短い言葉です。でも翌年になると、その手帳を見て『去年も遅かった』と話していました。

インタビュアー

アグリノマの原点に近いですね。

沢村

かなり近いと思います。記録は立派なレポートである必要はない。短い言葉でも、その人の判断を支えることがある。そこは祖母の手帳から学んだ感覚かもしれません。

農業記録について取材に応じる沢村 真琴氏
作業記録と翌季の判断材料について、資料を見ながら語る沢村 真琴氏。

Question 03

農業支援を事業にするとき、最初に怖かったことはありますか。

インタビュアー

農業支援を事業にするとき、最初に怖かったことはありますか?

沢村

外から来た人間が、分かったような顔をしてしまうことです。農業には長い経験がありますし、地域ごとの事情もあります。そこに便利そうな言葉だけ持って入るのは怖いと思っていました。

インタビュアー

支援する側の姿勢が問われる。

沢村

問われます。特にデジタルの話は、使う側が遅れているように見せてしまう危うさがあります。でも実際には、現場には理由があるんです。紙で残す理由も、口頭で伝える理由もあります。

インタビュアー

古いから変える、ではない。

沢村

そうです。古いから悪いのではありません。続いてきたものには、続いてきた理由があります。その理由を知らずに変えると、信頼を失います。

インタビュアー

では、最初はどう入っていくのですか?

沢村

まず聞きます。作業の邪魔にならない時間に、今日は何を見ていましたか、去年はどうでしたか、と聞く。便利な機能の話はその後です。

インタビュアー

機能より先に関係をつくる。

沢村

はい。畑に入る前に、関係に入らないといけないと思っています。

Question 04

沢村さんは穏やかに話されますが、経営判断も同じテンポですか。

インタビュアー

沢村さんは穏やかに話されますが、経営判断も同じテンポですか?

沢村

穏やかに見えるだけで、内心はわりと焦っています(笑)。ただ、焦っているときほど、農業の時間を忘れないようにしています。

インタビュアー

農業の時間、ですか?

沢村

はい。作物は、こちらの事業計画に合わせて育つわけではありません。季節がありますし、雨もあります。だから、サービスの広げ方も、あまり短期の都合だけで考えると合わなくなります。

インタビュアー

成長の速度を現場に合わせる。

沢村

そうですね。もちろん会社なので、前へ進める必要はあります。ただ、農業の現場に残るものをつくるなら、一年をまたいで使われるかを見なければいけません。

インタビュアー

一年使われて初めて分かることがある。

沢村

あります。春には便利でも、収穫期には邪魔かもしれない。雨の多い年には使われても、晴れが続く年には見られないかもしれない。そういう変化を見たいんです。

インタビュアー

経営の時間軸も長くなる。

沢村

長くなります。そこが難しくもあり、面白いところです。

圃場資料を確認する沢村 真琴氏
圃場ごとの変化をどう残すか、記録の読み返し方を説明する沢村 真琴氏。

Question 05

最初のプロダクトづくりで、失敗したことはありますか。

インタビュアー

最初のプロダクトづくりで、失敗したことはありますか?

沢村

たくさんあります。最初は、記録項目を細かくしすぎました。あとで分析しやすいようにと思って、作業、天候、状態、気づきなどをきれいに分けたんです。

インタビュアー

聞くだけだと便利そうです。

沢村

作る側には便利でした。でも畑では続きませんでした。暑い中で作業した後に、細かい項目を埋めるのは負担です。『あとでやろう』となり、そのまま忘れてしまう。

インタビュアー

現場に合っていなかった。

沢村

はい。ある生産者の方に『沢村さん、これは日誌じゃなくて宿題だね』と言われました。あれは効きました。

インタビュアー

厳しいけれど、分かりやすい言葉ですね。

沢村

本当にそうです。そこから、記録を宿題にしないことを考えるようになりました。写真一枚、短い一言、後から補える余白。そういう形へ変えていきました。

インタビュアー

入力を減らす勇気も必要だった。

沢村

必要でした。作り手は情報を欲しがります。でも、使う人の一日を考えると、欲しがりすぎてはいけないんです。

Question 06

農業記録には、家族や地域の関係も入ってきますか。

インタビュアー

農業記録には、家族や地域の関係も入ってきますか?

沢村

入ってきます。農業は一人の仕事に見えて、家族や近所の人との関係の中で動いていることが多いです。誰が水を見たのか、誰が収穫を手伝ったのか、誰に少し聞いたのか。そういうことが記録の裏にあります。

インタビュアー

単なる作業ログではない。

沢村

そうです。作業の記録であると同時に、関係の記録でもあります。だから、見せる範囲には気をつけます。家族には共有したいけれど、地域全体には出したくないこともあります。

インタビュアー

共有の距離感が大事ですね。

沢村

かなり大事です。便利だから全部共有しましょう、とは言えません。農業には生活の情報も含まれます。そこを丁寧に扱わないと、安心して使ってもらえません。

インタビュアー

記録のサービスなのに、人間関係の設計でもある。

沢村

そう思います。誰に見せるか、いつ見せるか、どの言葉なら負担にならないか。そこまで含めて道具だと考えています。

インタビュアー

地域の中では、言葉の選び方も変わりますか?

沢村

変わります。標準的な言葉より、地域で普段使っている言い方の方が伝わることがあります。そういう言葉を無理に直さないようにしています。

Question 07

沢村さん自身が、畑で学んだ一番大きなことは何ですか。

インタビュアー

沢村さん自身が、畑で学んだ一番大きなことは何ですか?

沢村

思い通りにならないことを前提にすることです。計画は必要ですが、自然は計画通りには動きません。だから、予定が変わることを失敗と見ない方がいい。

インタビュアー

事業にも通じそうです。

沢村

通じます。事業でも、予定通りにいかないことは多いです。そこで無理に計画へ戻そうとするより、何が変わったのかを見て、次の動きを考える方がよいことがあります。

インタビュアー

農業から経営を学んでいる。

沢村

かなり学んでいます。畑では、焦っても芽は早く出ません。でも何もしなくていいわけではない。水を見る、土を見る、風を見る。待つためにも、やることがあります。

インタビュアー

待つためにも、やることがある。

沢村

はい。その感覚は経営にもあります。急がないといけない日もありますが、急いでも変わらないこともあります。そこを見分けたいです。

インタビュアー

穏やかなようで、かなり強い考えですね。

沢村

強いかは分かりませんが、畑に教わった感覚です。

Question 08

若い世代に農業を伝えるうえで、アグリノマは何ができますか。

インタビュアー

若い世代に農業を伝えるうえで、アグリノマは何ができますか?

沢村

最初の質問をしやすくすることだと思います。農業を始めたばかりの人は、何を聞けばいいのか分からないことがあります。経験者も、何から教えればいいか迷う。

インタビュアー

記録が会話の入り口になる。

沢村

はい。過去の記録を見ながら、『この日はなぜ作業を遅らせたのですか』と聞ける。そうすると、経験者も答えやすいんです。いきなり全部教えてくださいと言われるより、具体的な場面がある方が話しやすい。

インタビュアー

教える側にも助けになる。

沢村

助けになります。経験者の方は、当たり前にやっていることほど説明しにくい。記録があると、その当たり前を少しずつ言葉にできます。

インタビュアー

知識の継承というと大げさですが、日々の会話から始まる。

沢村

そうですね。大きな教育プログラムをつくる前に、今日の畑を一緒に見返すことが大事だと思っています。

インタビュアー

アグリノマの役割もそこにある。

沢村

はい。記録を残すだけでなく、次の会話を生む道具にしたいです。

Question 09

事業として、どこまで成長させたいと考えていますか。

インタビュアー

事業として、どこまで成長させたいと考えていますか?

沢村

成長は必要です。ただ、早く広げることだけを目標にすると、農業の現場とは合わなくなると思っています。

インタビュアー

広げ方にも作法がある。

沢村

あります。地域の中で信頼されるまでには時間がかかります。一人が使ってよかったからすぐ全員へ、ということでもありません。家族、近所、組合、出荷先など、いろいろな関係があります。

インタビュアー

関係の中に入る必要がある。

沢村

はい。だから、数字だけを追うと見誤ります。何人が登録したかより、季節をまたいで使われたか、家族の会話に入ったか、翌年の判断に使われたかを見たいです。

インタビュアー

かなり長い目で見ていますね。

沢村

長く見ざるを得ない領域だと思います。農業支援の道具が一年で消えてしまったら、現場からするとまた新しいものに振り回されたことになります。

インタビュアー

残る責任がありますね。

沢村

そう思います。使ってくださいと言うなら、こちらも続ける覚悟を持たないといけません。

Question 10

アグリノマのノートは、一般的な作業日誌と何が違いますか。

インタビュアー

アグリノマのノートは、一般的な作業日誌と何が違いますか?

沢村

作業を記録するだけではなく、判断の背景を残せるようにしています。たとえば、雨の予報を見て前倒ししたのか、土の乾き具合を見て待ったのか。同じ作業でも理由が違います。

インタビュアー

理由が残ると、次の季節に使える。

沢村

はい。あとから読んだときに、あの時の自分は何を見ていたのかが分かることが大切です。

Question 11

記録を負担にしないために、何を意識していますか。

インタビュアー

記録を負担にしないために、何を意識していますか?

沢村

入力項目を増やしすぎないことです。農繁期に細かい項目を埋める余裕はありません。あとで役立つ情報だけを、できるだけ短く残せるようにしています。

インタビュアー

細かければよいわけではない。

沢村

そうですね。記録が立派でも、続かなければ意味がありません。続く形にすることが一番難しいです。

Question 12

地域の生産者グループでは、どんな使われ方をしていますか。

インタビュアー

地域の生産者グループでは、どんな使われ方をしていますか?

沢村

畑ごとの状況を共有するだけでなく、支援担当者との会話の材料として使われることがあります。『去年はここで迷った』という話ができると、助言も具体的になります。

インタビュアー

記録が対話の入口になる。

沢村

はい。指導や管理というより、一緒に振り返るための材料ですね。その距離感は大切にしています。

Question 13

農業の現場で、デジタル化が難しいと感じる点はありますか。

インタビュアー

農業の現場で、デジタル化が難しいと感じる点はありますか?

沢村

畑の状態は言葉にしにくいことが多いです。少し重い、乾きが早い、去年と違う。そういう表現は、数値だけでは拾いきれません。

インタビュアー

感覚の言葉も重要なのですね。

沢村

とても重要です。だから、きれいに分類しすぎないようにしています。生産者の言葉が残ることにも価値があります。

Question 14

Grand Focusとして深く伺います。沢村さんにとって、よい農業支援とは何でしょうか。

インタビュアー

Grand Focusとして深く伺います。沢村さんにとって、よい農業支援とは何でしょうか?

沢村

現場の判断を奪わないことです。支援という言葉は便利ですが、外から正解を押しつけると続きません。生産者が自分で見て、自分で決めるための材料を増やすことが支援だと思っています。

インタビュアー

決める人はあくまで現場にいる。

沢村

はい。私たちは、その判断が孤立しないように支える立場です。

Question 15

天候に左右される仕事だからこそ、予定管理も難しそうです。

インタビュアー

天候に左右される仕事だからこそ、予定管理も難しそうです。

沢村

難しいです。予定通りにいかないことが普通です。だから、予定がずれたことを責めるのではなく、なぜずれたのかを残すほうが大切です。

インタビュアー

ずれも記録の一部になる。

沢村

そうです。予定変更の理由が残ると、次の判断が少し楽になります。

Question 16

組織づくりでは、どんなことを大切にしていますか。

インタビュアー

組織づくりでは、どんなことを大切にしていますか?

沢村

急いで答えを出さないことです。農業の話は、季節や地域によって意味が変わります。ある地域で正しいことが、別の地域では合わないこともあります。

インタビュアー

一般化しすぎない。

沢村

はい。共通化できるところと、残すべき違いを分けて考えています。

Question 17

生産者の方から言われて印象に残っている言葉はありますか。

インタビュアー

生産者の方から言われて印象に残っている言葉はありますか?

沢村

『去年の自分に聞ける感じがする』と言われたことがあります。これはうれしかったですね。

インタビュアー

記録が過去の自分との対話になる。

沢村

そうです。農業は一年単位で振り返ることが多いので、去年の判断が残っていることには大きな意味があります。

Question 18

今後深めたい領域はどこですか。

インタビュアー

今後深めたい領域はどこですか?

沢村

収穫後の振り返りです。作業中は忙しくて、なかなか考えを整理できません。落ち着いた時期に、何が良かったのか、何を変えるのかを見返せるようにしたいです。

インタビュアー

季節が終わってから見えることもある。

沢村

あります。むしろ、その時期にしか見えないことがあります。

Question 19

農業記録の現場で、最初に気づいたことは何でしたか。

インタビュアー

農業記録の現場で、最初に気づいたことは何でしたか。

沢村

記録がないのではなく、記録が散らばっているということでした。手帳、紙、スマートフォンの写真、家族への口頭の伝言。必要な情報はあるのに、あとから見返しにくい形になっていました。

インタビュアー

記録を増やす以前に、見返せる形にする必要があった。

沢村

そうです。農業は季節ごとの繰り返しが大きい仕事です。去年の同じ時期に何をして、どんな天候で、どこに迷ったのか。そこが残ると、翌年の判断が変わります。

インタビュアー

一年後に効いてくる情報なのですね。

沢村

はい。今日便利なだけでは足りません。来月、来年、次の世代が見ても役に立つ記録にしたいと思いました。

Question 20

農業の記録は、なぜ続きにくいのでしょうか。

インタビュアー

農業の記録は、なぜ続きにくいのでしょうか?

沢村

忙しいからです。これは本当に大きいです。朝早くから外に出て、天気を見ながら作業して、夕方には疲れている。その状態で長い入力を求めても続きません。

インタビュアー

入力する気持ちの問題だけではない。

沢村

そうですね。手が汚れている、日差しが強い、通信が弱い、家に戻ると別の用事がある。記録できない理由はたくさんあります。

インタビュアー

使う場所がオフィスではないということですね。

沢村

はい。畑で使う道具は、机の前で使う道具とは違います。そこを分からずに設計すると、よくできた画面でも続かないんです。

Question 21

年配の生産者にも使いやすくするために、何を意識していますか。

インタビュアー

年配の生産者にも使いやすくするために、何を意識していますか?

沢村

説明しなくても迷いにくいことです。新しい言葉をたくさん覚えてもらうのではなく、普段の言い方に近づけるようにしています。

インタビュアー

専門用語を増やさない。

沢村

はい。たとえば『ステータス』より『いまの状態』の方が伝わる場面があります。画面上の言葉ひとつで、使う気持ちは変わります。

インタビュアー

実際に使ってもらいながら直すのですか?

沢村

かなり直します。こちらが便利だと思ったものでも、現場で一度も押されないことがあります(笑)。そのときは理由を聞いて、言葉や順番を変えます。

Question 22

写真の扱いは、農業記録では重要になりますか。

インタビュアー

写真の扱いは、農業記録では重要になりますか?

沢村

重要です。文章で細かく書くより、葉の色や畑の様子を写真で残した方が分かりやすいことがあります。

インタビュアー

写真なら、その場で残せる。

沢村

はい。ただ、写真も撮りっぱなしだと後から探せません。いつ、どの畑で、何のために撮ったのかが分かるようにする必要があります。

インタビュアー

写真に少しだけ文脈を添える。

沢村

そうです。長い文章を書かなくても、『いつもの場所』『少し葉色が薄い』『雨のあと』くらい残れば、あとから十分に役立つことがあります。

Question 23

天候に左右される仕事だからこそ、予定通りには進まないですよね。

インタビュアー

天候に左右される仕事だからこそ、予定通りには進まないですよね。

沢村

本当にその通りです。予定表をきれいにつくっても、雨が降れば変わります。暑すぎても、風が強くても、作業は変わります。

インタビュアー

計画よりも、変更を受け止める仕組みが必要になる。

沢村

はい。農業では予定を守ることより、状況に合わせて直せることの方が大切な場面があります。だから、変更した理由を残せることを重視しています。

インタビュアー

理由が残ると、次の判断にもつながる。

沢村

そうです。『雨で延期』だけでなく、どのくらいの雨で、どの作業を後ろに回したのか。それが翌年の参考になります。

Question 24

家族経営の現場では、情報共有の難しさもありますか。

インタビュアー

家族経営の現場では、情報共有の難しさもありますか?

沢村

あります。家族だから話せている部分も多いのですが、逆に言わなくても分かると思ってしまうこともあります。

インタビュアー

近い関係だからこその抜けもある。

沢村

そうですね。『いつもの畑を見ておいて』で通じることもありますが、忙しい時期には勘違いが起きます。記録があると、確認の言葉が少し楽になります。

インタビュアー

記録が会話を冷たくするわけではない。

沢村

むしろ逆だと思います。責めるための記録ではなく、家族や仲間が同じ景色を見やすくするための記録です。

Question 25

地域の生産者同士で記録を共有する難しさは何でしょうか。

インタビュアー

地域の生産者同士で記録を共有する難しさは何でしょうか?

沢村

それぞれのやり方に誇りがあることです。農業は土地も経験も違いますから、単純に一つの型へ合わせることはできません。

インタビュアー

共通化しすぎると、現場の違いが消えてしまう。

沢村

はい。だから、共通で見るものと、個別に残すものを分けます。作業日や天候のように共有しやすいものもあれば、その人だけの工夫として残したいものもあります。

インタビュアー

無理に同じ言葉にしない。

沢村

そうです。地域には地域の言い方があります。それを尊重しながら、必要なところだけつながるようにしたいです。

Question 26

データが残ることで、農業の会話は変わりますか。

インタビュアー

データが残ることで、農業の会話は変わりますか?

沢村

変わります。ただ、数字で人を説得するというより、思い出す材料が増えるという感じです。

インタビュアー

思い出す材料ですか?

沢村

はい。『去年はこの時期に迷ったよね』『あの畑は水はけが悪かったよね』と話せる。記録があると、経験が会話の中に戻ってきます。

インタビュアー

農業の知恵を会話に戻す。

沢村

そう言えると思います。データというと硬く聞こえますが、現場では『そういえば』を助けるものでもあります。

Question 27

AIを使う場合、どこまで任せてよいと考えていますか。

インタビュアー

AIを使う場合、どこまで任せてよいと考えていますか?

沢村

注意喚起や過去記録の整理には役立つと思います。ただ、畑を最終的に見るのは人です。土の匂いや風の感じまで、AIが全部分かるわけではありません。

インタビュアー

人の観察を置き換えるものではない。

沢村

はい。AIは過去の記録を探したり、似た状況を示したりする補助役です。現場の判断を軽くするためのものではなく、判断材料を増やすものだと思っています。

インタビュアー

技術と経験を並べるような感覚ですか?

沢村

近いです。経験だけに頼ると引き継ぎが難しい。技術だけに頼ると現場から離れる。その間をつなぎたいです。

Question 28

農業支援の会社として、都市部の感覚を持ち込みすぎないことも大切ですか。

インタビュアー

農業支援の会社として、都市部の感覚を持ち込みすぎないことも大切ですか?

沢村

とても大切です。会議室で考える便利さと、畑で使う便利さは違います。畑では画面を見る時間も限られますし、手も空いていません。

インタビュアー

現場の一日を想像しないといけない。

沢村

想像だけでも足りません。実際に行って、暑さや風や移動の多さを感じる必要があります。そこで初めて、なぜ入力が続かないのかが分かることがあります。

インタビュアー

現場に行くこと自体が開発の一部なのですね。

沢村

そう思っています。土の上で使われる道具を、机の上だけで決めるのは怖いです。

Question 29

若い世代が農業に入るとき、記録は助けになりますか。

インタビュアー

若い世代が農業に入るとき、記録は助けになりますか?

沢村

助けになると思います。最初は何を見ればよいのか分からないことが多いです。記録があると、過去の判断をたどれます。

インタビュアー

経験を学ぶ入り口になる。

沢村

はい。もちろん記録だけで農業が分かるわけではありません。ただ、先輩に聞くときの質問が具体的になります。『去年ここで迷っていますが、なぜですか』と聞ける。

インタビュアー

教える側も話しやすくなりそうです。

沢村

そうですね。感覚だけで伝えていたことを、少しずつ言葉にできます。世代をつなぐ道具にもなると思っています。

Question 30

沢村さん自身は、現場でどんな瞬間に嬉しくなりますか。

インタビュアー

沢村さん自身は、現場でどんな瞬間に嬉しくなりますか?

沢村

『これ、去年もあったよね』と自然に記録を見返してくれたときです。使ってくださいと言われて使うのではなく、自分たちの判断に必要だから開く。その瞬間は嬉しいですね。

インタビュアー

道具が日常に入った感じがある。

沢村

あります。あと、畑で冗談を言いながら記録している場面も好きです。『また沢村さんに見られるからちゃんと書いておこう』なんて言われると、少し申し訳ないですが(笑)。

インタビュアー

なごやかな距離感ですね。

沢村

そういう関係が大事だと思います。道具だけが入っても、信頼がなければ続きません。

Question 31

農業では、記録しない方が自然な場面もありますか。

インタビュアー

農業では、記録しない方が自然な場面もありますか?

沢村

あります。目の前の作業が優先される場面では、記録より手を動かすことが大切です。そこを無理に止めてまで入力してもらうのは違うと思っています。

インタビュアー

全部をその場で書くわけではない。

沢村

はい。あとで短く残せれば十分なこともありますし、写真一枚で足りることもあります。記録の形は作業に合わせるべきです。

インタビュアー

作業の流れを邪魔しない。

沢村

そうです。農作業には勢いがあります。天気が変わる前に終わらせたい日もあります。そういう日には、記録の道具は控えめであるべきです。

インタビュアー

控えめな道具という表現がいいですね。

沢村

畑では、道具が主役になってはいけないと思っています。

Question 32

生産者の勘を、どのように尊重していますか。

インタビュアー

生産者の勘を、どのように尊重していますか?

沢村

勘という言葉で片付けられがちですが、実際には長い観察の積み重ねです。葉の色、土の湿り方、風の向き。言葉にしにくい情報を身体で覚えている。

インタビュアー

それをデータで置き換えるわけではない。

沢村

置き換えられません。むしろ、勘の背景にある観察を少しだけ残せるようにしたい。『今日はなんとなく違う』という一言にも価値があります。

インタビュアー

曖昧な言葉も大切にする。

沢村

はい。最初からきれいな分類に入れようとすると、現場の感覚が消えてしまいます。曖昧さを残したまま、あとで振り返れることが大事です。

インタビュアー

農業らしい記録ですね。

沢村

そう思います。自然を相手にしているので、割り切れないものを無理に割り切らないことも必要です。

Question 33

作物ごとの違いは、サービス設計にも影響しますか。

インタビュアー

作物ごとの違いは、サービス設計にも影響しますか?

沢村

影響します。作物によって見る時期も、気にする変化も違います。同じ畑の記録でも、使う言葉が変わることがあります。

インタビュアー

共通の画面だけでは足りない。

沢村

足りない場面があります。ただ、作物ごとに全部を別物にすると使いにくくなります。共通で使える部分と、作物ごとに変えられる部分を分けています。

インタビュアー

農業の多様さをどう受け止めるかですね。

沢村

そうですね。農業という一言でまとめられますが、現場は本当に多様です。そこを一つの正解にしないようにしています。

インタビュアー

一つの正解にしない。

沢村

はい。生産者ごとのやり方を尊重しながら、見返しやすさを加える。そのくらいの距離感がちょうどいいと思っています。

Question 34

地域の中で、記録を共有することへの抵抗はありますか。

インタビュアー

地域の中で、記録を共有することへの抵抗はありますか?

沢村

あります。自分のやり方をどこまで見せるのか、失敗した記録を共有してよいのか。そこは慎重に扱う必要があります。

インタビュアー

共有すればよい、とは言い切れない。

沢村

言い切れません。記録には生活や経営の感覚も入ります。だから、何を共有し、何を個人の記録に留めるのかを選べることが大事です。

インタビュアー

信頼が前提になりますね。

沢村

そうです。地域の中で使われるものは、機能だけでは広がりません。『この範囲なら安心して使える』と思ってもらえることが大切です。

インタビュアー

距離感の設計でもある。

沢村

まさにそうです。近すぎても負担になるし、遠すぎると助けになりません。

Question 35

天候不順が続くと、記録の意味も変わりますか。

インタビュアー

天候不順が続くと、記録の意味も変わりますか?

沢村

変わります。平年通りという言葉が通じにくくなると、過去の記録を見る意味も変わってきます。単に去年と同じかではなく、違いをどう見たかが大切になります。

インタビュアー

過去をそのままなぞるためではない。

沢村

はい。過去の記録は、同じことをするためだけではなく、違いに気づくためにも使えます。今年は雨の入り方が違う、気温の上がり方が違う。そういう会話のきっかけになります。

インタビュアー

変化を読む材料になる。

沢村

そうです。ただ、自然は簡単には読めません。だから断定ではなく、考える材料として記録を使うのがよいと思っています。

インタビュアー

農業の慎重さが出ていますね。

沢村

自然相手に言い切りすぎるのは怖いですから。

Question 36

沢村さんは、数字に出ない価値をどう見ていますか。

インタビュアー

沢村さんは、数字に出ない価値をどう見ていますか?

沢村

かなり大切にしています。たとえば、家族の会話が少し増えることや、作業前の不安が少し減ることは、すぐ数字には出ません。でも続ける力には関係します。

インタビュアー

農業は生活とも近い仕事です。

沢村

そうですね。仕事と生活が完全に分かれていない場面も多いです。だから、道具が日々の気持ちに与える影響も無視できません。

インタビュアー

記録で気持ちが軽くなることもある。

沢村

あります。『去年も迷っていたけど何とかなった』と見返せるだけで、少し落ち着くことがあります。そういう価値も見たいです。

インタビュアー

やさしい効き方ですね。

沢村

農業支援は、それくらいのやさしさがあってよいと思っています。

Question 37

現場で言われて、はっとした言葉はありますか。

インタビュアー

現場で言われて、はっとした言葉はありますか?

沢村

『記録したいんじゃなくて、忘れたくないんだよ』と言われたことがあります。これは大きかったですね。

インタビュアー

記録という言葉の印象が変わりますね。

沢村

変わりました。こちらは機能として記録を考えがちですが、現場では、失敗したくない、次に活かしたい、家族に伝えたいという気持ちがあります。

インタビュアー

忘れたくないものを残す。

沢村

はい。作業の数字だけでなく、その日の判断や迷いも含めて残したい。そこからアグリノマの見方も変わりました。

インタビュアー

機能より先に感情がある。

沢村

そう思います。畑の記録は、人の記憶にとても近いところにあります。

Question 38

Grand Focusとして、沢村さんの経営観も聞かせてください。

インタビュアー

Grand Focusとして、沢村さんの経営観も聞かせてください。

沢村

急に広げないことを大事にしています。農業の現場は地域ごとに違いますから、早く広げるより、信頼を失わないことの方が大切です。

インタビュアー

拡大より、根づくことを優先する。

沢村

はい。使ってくれる方の一日を知らないまま広げても、どこかで無理が出ます。まずは一つの地域、一つの作業、一つの困りごとを丁寧に見る。

インタビュアー

かなり慎重ですね。

沢村

慎重だと思います。でも農業の時間は長いです。短いキャンペーンのように広がるより、季節をまたいで残るものをつくりたいです。

インタビュアー

季節をまたいで残る。

沢村

それができて初めて、農業支援と言えるのではないかと思っています。

Question 39

農業支援の事業として、価格や負担の設計も難しそうです。

インタビュアー

農業支援の事業として、価格や負担の設計も難しそうです。

沢村

難しいです。農業の現場では、便利そうだからすぐ使ってくださいとは言えません。作物や季節によって収入のタイミングも違いますし、支出への感覚も慎重です。

インタビュアー

事業として続ける必要もあります。

沢村

そこが悩みです。安くすればいいという単純な話ではありません。私たちが続かなければ、使ってくださる方にも迷惑をかけます。一方で、現場にとって重すぎる負担にはできません。

インタビュアー

続けられる価格と、使い続けられる価格の間ですね。

沢村

はい。だから、どの機能を最初に届けるのか、どこまで支援を含めるのかを慎重に考えます。使い始めの説明や、季節の切り替わりの支援も含めて価値です。

インタビュアー

単なるアプリ利用料ではない。

沢村

そうですね。記録の習慣が残るまで一緒に見ていくことも、私たちの仕事だと思っています。

インタビュアー

事業としての現実感があります。

沢村

現実から離れると続きませんから。農業支援は、理想だけでも、安さだけでも難しいです。

Question 40

気候の変化に対して、アグリノマはどこまで役に立てますか。

インタビュアー

気候の変化に対して、アグリノマはどこまで役に立てますか?

沢村

天候を予測する会社ではありませんし、何かを断定することはできません。ただ、変化に気づく材料を残すことはできます。

インタビュアー

予測ではなく、気づく材料。

沢村

はい。今年は雨の降り方が違う、暑さの出方が違う、作業を遅らせた理由が違う。そういう記録が残っていると、次の年に話し合う材料になります。

インタビュアー

記録が地域の会話を支える。

沢村

そうです。気候の話は大きくなりがちですが、現場では明日の作業をどうするかが大切です。大きな変化と、目の前の判断をつなぐために記録があります。

インタビュアー

大きな問題を、日々の判断へつなぐ。

沢村

はい。ただ、農業の方々はすでに変化を肌で感じています。私たちはそれを教える立場ではありません。感じていることを残し、共有し、次に活かす手伝いをする立場です。

インタビュアー

上から説明するのではない。

沢村

そこは本当に気をつけています。

Question 41

生産者のデータを扱ううえで、守りたい線引きはありますか。

インタビュアー

生産者のデータを扱ううえで、守りたい線引きはありますか?

沢村

あります。農業記録は、単なる作業データではありません。畑の状態、家族の分担、収穫の見込み、場合によっては経営の感覚まで含まれます。

インタビュアー

かなり個人的な情報でもある。

沢村

そうです。だから、こちらが勝手に広く使ってよいものではありません。共有範囲を選べること、何のために使われるのかが分かることが大切です。

インタビュアー

地域で共有する場合も慎重になる。

沢村

慎重になります。地域全体で見ると役立つ情報もありますが、個別の畑や判断が特定される形で出ると困ることもあります。

インタビュアー

便利さと安心の両方が必要ですね。

沢村

はい。安心できない道具は、畑には残りません。使う方が自分の記録を自分のものだと思えることが大事です。

インタビュアー

記録の所有感ですね。

沢村

そうですね。自分たちの記録であり、自分たちの判断を助けるもの。その感覚を守りたいです。

Question 42

沢村さんにとって、アグリノマが本当に根づいたと言える状態は何ですか。

インタビュアー

沢村さんにとって、アグリノマが本当に根づいたと言える状態は何ですか?

沢村

私たちの名前が出なくても、記録を見ながら自然に会話が始まる状態です。『アグリノマを使いましょう』ではなく、『去年どうだったっけ』と開いてもらえる。

インタビュアー

道具の名前より、使われ方が大事。

沢村

はい。道具の存在を意識しすぎずに、畑の会話の中に入っている状態が理想です。

インタビュアー

かなり控えめな理想ですね。

沢村

控えめかもしれません。でも農業の主役は生産者であり、畑です。私たちが前に出すぎる必要はありません。

インタビュアー

最後に残したいものは何でしょうか?

沢村

経験が途切れないことです。誰かが見てきたもの、迷ってきたこと、工夫してきたことが、次の季節や次の人に少しでも渡る。そこに貢献できれば十分に意味があると思っています。

インタビュアー

静かですが、大きなテーマです。

沢村

農業は静かに大きい仕事だと思います。私たちも、そういう支え方をしたいです。

Question 43

アグリノマのチームには、どんな人が合うのでしょうか。

インタビュアー

アグリノマのチームには、どんな人が合うのでしょうか?

沢村

待てる人です。もちろん仕事なので、ただ待つだけでは困ります。でも、現場の方が言葉にするまで待つ、季節が一巡するまで見る、急いで結論を出さない。そういう待ち方ができる人が合うと思います。

インタビュアー

待つ力が必要なのですね。

沢村

必要です。農業の現場では、こちらが質問したその日に答えが出ないことがあります。次の雨のあとに分かることもありますし、収穫が終わってから初めて話せることもあります。

インタビュアー

普通の開発サイクルとは違いますね。

沢村

違います。だから、社内では『今すぐ答えが出ない問いを持ち続ける』ことを大事にしています。すぐに機能へ変えるのではなく、しばらく持っておく。

インタビュアー

持っておく、というのは面白いです。

沢村

忘れるのではなく、急がないということです。何人かの生産者の言葉が重なって、やっと見えてくることがあります。その時に、最初の一言をちゃんと覚えていることが大事なんです。

インタビュアー

記録の会社らしいチーム文化ですね。

沢村

そうかもしれません。私たち自身も、利用者の言葉を記録しながら考えているのだと思います。

Question 44

記録を扱う中で、沢村さん自身が変わったことはありますか。

インタビュアー

記録を扱う中で、沢村さん自身が変わったことはありますか?

沢村

自分の記憶をあまり信用しすぎなくなりました。人は覚えているつもりでも、後から都合よく並べ替えてしまうことがあります。

インタビュアー

農業記録を扱う中で、ご自身の記憶にも慎重になった。

沢村

はい。畑の記録を見ていると、去年の自分が思っていたことと、今の自分が覚えていることが違う場面があります。『あの時はこう考えていたんだ』と気づく。それは少し怖くもあり、面白くもあります。

インタビュアー

記録が、自分の思い込みを直してくれる。

沢村

そうですね。経営でも同じです。あとから見れば、うまくいった理由をきれいに語れてしまう。でも当時は迷っていたはずです。その迷いを残しておくと、次の判断に正直になれます。

インタビュアー

迷いを残すことにも価値がある。

沢村

あります。農業でも経営でも、迷いがない人の方が危ないことがあります。迷った理由を残し、次に同じような場面で見返せることが、判断を少し強くしてくれると思っています。

インタビュアー

沢村さんの事業観そのものですね。

沢村

はい。記録は正解を保存するものではなく、迷いながら考えた跡を残すものでもあると思っています。

Question 45

アグリノマで実現したい未来を教えてください。

インタビュアー

アグリノマで実現したい未来を教えてください。

沢村

地域の知恵が、個人の記憶だけに閉じない状態をつくりたいです。誰かの経験が、次の人の判断を少し助ける。その積み重ねが、農業の継続性につながると思っています。

インタビュアー

記録を未来の人に渡す仕事ですね。

沢村

はい。大げさに言えばそうです。でも始まりは、今日の畑で迷ったことを、明日の自分に残すことだと思っています。

Editor's Note

沢村氏の話は、農業を急いでデータ化しない。畑を見る人の感覚、季節のずれ、家族や地域の関係を含めて、記録の意味を考えている。静かな語りの中に、現場への深い敬意がある。

Profile

沢村真琴。アグリノマ Founder / CEO。栽培記録と作業予定を共有する農業支援ノートを手掛ける。畑ごとの判断を季節をまたいで使える情報に変え、地域の生産現場を支える取り組みを続けている。

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